甲子園余話 (日本経済新聞 経営者ブログ)より ご紹介

甲子園余話 (鈴木修氏の経営者ブログ)    

企業も家族も、不測の事態に備えた蓄えが必要です。私は毎夏、甲子園での高校球児の熱戦を見るたびに、29年前から大事に残してある「甲子園基金」の事を思い出し、「いつ、その日が来ても蓄えがあるから大丈夫」と安心するのです。

実は私の息子がお世話になった浜松市内の県立高校は29年前、第63回の夏の甲子園に出場しました。その時のPTA会長がこの私。開校以来の快挙にわき上がり、さあ甲子園に行くための寄付金を集めようということになりました。今だから言えますが、私は当時、米ゼネラル・モーターズとの提携交渉が佳境を迎え、東京のホテルで缶詰め状態でした。それでもうれしくてたまらず寄付金募集の発起人代表となり、できるだけの協力をしました。

結果的に予想をはるかに上回る額が集まり、甲子園で決勝まで進んでも充分足りる状態になりましたが、2回戦で惜しくも1-2で敗れました。予想外に早い敗戦で、大会終了後、今度は大半残った浄財をどうするかが問題となりました。

学校の部活動発展の為合宿所を建設しようなんて話やら、色々な意見が出ました。しかし、私は「『宵越の金は持たぬ』とか、『山賊の山分け』みたいな事ではなく、次に甲子園に出る時はこんなに寄付金は集まらないだろうから、その時の為に貯金しておこう」と提案し、皆さんにご理解を頂きました。

当時の金利は5%でしたから基金として預金しておけば、運用益だけでも毎年クラブ活動を支援できると思ったのです。この基金については、学校長やPTA会長などで構成するメンバー全員の同意を条件に取り崩す事が出来ると言う規約を作りました。しかし、あれから29年。未だに甲子園の土を踏めずにいます。

数年前には基金を取り崩して、受験勉強が忙しい3年生の為に空調機器を整備しようと言う話がありましたが、私は「それは寄付をして下さった方々の志にそぐわない話。東海地震がおきるかも知れないし、いつ何が起こるか判らないご時世だからこそ残しておくべきだ」と進言しました。私はもうOB会長でも何でもないので決定権がありませんが、学校関係者の皆さんは年寄りのいう事を聞いてくれました。

今の金利は1%を下回っていますから、毎年の運用益はすずめの涙。何の足しにもならなくなりました。それでも私は大事に残しておくべきだと思っています。企業だって、いつ何が起こるか判らないから内部留保をするわけです。内部留保を吐き出せという議論もありますが、そんなの無茶苦茶な暴論です。見渡せばバラマキだらけの世の中ですが、他人に頼らず生き残って行く為には蓄えを持っておくしかないのです。

それはそうと、私が生きている間に甲子園に行ってくれるんでしょうかねぇ。今年も予選3回戦で負けてしまいました。29年前に設立した基金は今後も生き残っていくのでしょうが、基金設立メンバーはいつまでも生きてはいられませんので。

もし年寄りの願いを叶えてくれたなら、その時は私が先頭に立って寄付金を募ってもいいですよ。あの時よりもOBも増えたし、前回を上回る寄付を集めてみせましょうか。途中で負けても蓄えが増えるのですから、いいじゃぁないですか。

当時の記事
http://www3.shizushin.com/anniversary/hamanishi/hamanisi101.html